2006年12月4日 OhmyNews HPより
「夕張に病院は必要ない」病院経営アドバイザーに聞いた

 総務省と北海道庁から夕張市立総合病院の経営アドバイザーを委託されている公認会計士の長隆(おさ・たかし)氏は、オーマイニュースの取材に対し、「再建計画案を出した8月時点では30床程度の病院機能を残すとしていたが、その後の調査で必要ないということが分かった。有床診療所、むしろ無床診療所でも構わないと思っている」として、同病院の整理は必然との見方を示した。

 自治体病院の再建を多く手がける同氏によると、医師不足や財政難による自治体病院の診療所への転換は、総合病院クラスでは初めて。
 中小クラスでは、2005年5月に約60床だった北海道穂別町立穂別病院が19床の診療所(現むかわ町国民健康保険穂別診療所)に転換したケースがある。

 また、新潟県巻町では、約40億円の負債のあった巻町立病院の処理が新潟市との合併条件に上がったため、2005年10月、民間の医療法人に約13億円で売却した。

 長氏によると、夕張市立総合病院の場合、10科170床を標榜してはいても、医師不足などで大半の診療科は月1〜数回の診療しか行っていなかった。

 救急病院の指定も受けていたが、「実際一緒に当直をしてみると、夜10時には急患は終了しており、近隣の栗山赤十字病院、岩見沢市立総合病院などに任せられる状況だった」。この9月からは、標榜科(内科・整形外科)以外の救急受け入れは行っていない。

 再建にあたってもっとも深刻だったのは、夕張市立総合病院全体にただよう活気のなさだったという。

 「この医師不足の時勢では、いくら年俸を上げてもやりがいを感じる職場でなければ医師は来ない。医師を確保するには、やりがいのある仕組みに変えなければならない」と長氏。職員全員解雇という再建案を示しても、労働組合の反対はなかったという。

 来年4月の病院機能の返上後は、在宅医療や予防活動を中心とした地域医療の拠点診療所として整備をはかっていく考えだ。

 「すでに地域医療に関心のある医師数人に赴任を打診し、東京や札幌から候補者が挙がっている。夕張で解雇となる病職員についても、給与待遇は下がるだろうが道内や本州の病院や介護施設といった再就職先を用意する」

 「夕張の医療再建の絶対条件は、市のお金を一切使わず立て直すことと、医療の質を上げること。総合病院が診療所になっても、少なくとも夕張市における医療の質を下げないということは守れる」

 “病院再建”の第一人者である長氏はこう語り、先行きに自信を見せている。



【解説】「医師いなければ医療はできない」
夕張市、放漫経営のツケ、医師の立ち去り止められず

 今回明らかになった夕張市立総合病院の診療所への格下げは、財政破綻した自治体の厳しい現実と同時に、全国で深刻化する医師不足の深刻さも表している。

 夕張炭坑病院として1910年に発足した同病院は、現在、10科170床を標榜する総合病院。しかし2003年ごろから医師・看護師の退職が相次ぎ、十分な医療を提供できなくなったことから入院・外来患者が激減した。このため病院の収益は急速に悪化、05年度には3億3371万円の赤字を計上した。

 総務省と北海道庁が公認会計士らに委託した経営診断によると、市内唯一の病院にもかかわらず患者が離れていった背景には、病院の運営体制の問題に伴う医療の質の低下がある。

 たとえば同病院の准看護師の年収は全国水準に比べ約100万円高く、また薬剤師や検査技師などの医療スタッフ(コメディカル)や事務職員の年収も全国水準より高かった。

 一方、卒後15年の医師の給与水準が、道内の他病院に比べ約300万円も低かった。勤続年数に給与がスライドする職員の人件費によって経営が圧迫され、医師や正看護師の給与や士気を高められる環境ではなかったと経営診断は指摘する。

 もっとも、病院内における仕事内容と給与が不釣合いな“不公平状態”は、夕張市に限らず、全国の自治体病院に共通する問題だ。夕張の場合には、市の財政破綻が先に表面化して助成が得られなくなったために、病院を立て直す暇がなかったという事情もある。

 医師たちは自分が去ると「地域医療が崩壊する」と分かっていても、立ち去っていく。医師が減る→残った医師への負荷が過大になる→疲弊した医師がまた去る――という負の循環に陥ったのは、同病院が地域医療を担う中核病院としてのビジョンを示さず、漫然と炭坑時代のままの経営を続けたツケと言えるだろう。

 高齢化率(全人口に対する65歳以上の人口の比率)が40.2%と全国最高の同市では、高齢者医療や介護に対応した経営への転換が求められていたはずだ。病院が何もしなかった結果、患者はバスで送迎してくれる近隣市町の他病院に流れた。

 市内に病院がなくなるという事実は重いが、市民の多くはすでに市外の病院にかかっているため、診療所への格下げとなっても生活に大きな変化はないとみられている。

 「疾患に対する医療は、医師がいなければ提供できない。それならば、総合病院や先進医療は他の地域の病院に任せ、夕張は地域医療への転換をはかっていく。そういう方向に、市民の意識を変えていくことも1つの生き方だ」。同病院の事務幹部はオーマイニュースの取材に対し、こう話した。

 解雇される病院職員91人のうち、看護師は正・准合わせ48人(11月1日現在)。正看護師22人については、全国的な看護師不足に伴い、他病院から引き抜きが来ているという。問題は准看護師26人だ。炭坑病院時代からの生え抜きが多く、平均年齢も高い。老人保健施設の開設は「先々の話」(同市議会幹部)になるといい、再就職はむずかしそうだ。

 当面の常勤医不足には、応援の医師が派遣されることが固まっている。瀬棚国保医科診療所前所長で、予防医療で有名な村上智彦医師が、年内から短期間、診療の応援に入る予定。

 「指定管理者の公募で民間の医療法人が入ってくれるのが一番いいが、だめならば自前で医療法人を立ち上げるしかない。われわれとしてはそれまでの間、村上医師に手伝ってもらいたい。村上医師を中心に新たに医療法人を設立するという構想もある」。夕張市議会幹部は、同医師の着任に望みをつなぐ状態だ。

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